新庁舎建設は「なぜ」、「今」なのか

 

 市報「うれしの」4月号の巻頭特集は「新庁舎を考える」がテーマでした。1962(昭和37)年建設で、すでに築60年が経過して耐震基準を満たさない嬉野庁舎の危険性を早急に除去する必要性があることから始まった論議。近年激甚化が顕著な自然災害への対応拠点として十分なのか―。老朽化で年々支出が増加する公共施設の維持管理費が財政を圧迫していて、今後も長期にわたって影を落とし続ける「現実」を見過ごすのか―。市民の生命を守り、将来への負担も考慮する責任ある立場として思案を繰り返す中で、「庁舎統一」に向けての協議を「今」行うべきとの判断を下しました。しかしながら、地区説明会やパブリックコメントでは、「時期尚早」「説明不足」などと厳しいお声も頂戴しました。そこで今一度論点を整理した上で、新庁舎建設に「なぜ」、そして「今」取り組まなくてはならないのか、お話ししたいと思います。

 

 市民や学識経験者でつくる「嬉野市庁舎のあり方検討委員会」(座長・谷口博文筑紫女学園大学教授)では、防災面や業務効率化、庁舎の維持管理費の課題、合併時の経緯など、あらゆる角度から検討が積み重ねられました。その結果、①2庁舎体制から行政機能を1か所に集約②新庁舎は現嬉野庁舎周辺の公有地③現塩田庁舎は地区住民の利便性を考慮して行政サービス窓口を設置―という報告がなされました。市としては、委員会からの報告をゼロベースで検討した上で、記者会見や説明会で市の方針を広く市民にお伝えさせていただきました。

 

  寄せられたご意見では財政負担への懸念も多かったように思います。確かに建設費数十億円と聞くと、それだけで不安に思われるかも知れません。しかし、この投資は50年に一度、いつかの時点で必ず行わなければならない性質のもので、永久に先送りはできません。とすれば、将来負担が最も少ないタイミングに行う必要があります。嬉野市は平成の大合併によってできた新しい市ですので、「合併特例債」という市債を活用することができます。市債は「借金」ではありますが、起債額のうち70%が交付税措置として国からの仕送りとして戻ってくる仕組みです。ただ、この事業債を使うためには4年後の令和7年度末までに完了しなくてはなりません。また、嬉野庁舎単独の建て替えにはこの合併特例債は使えません。本市の合併特例債の起債残高は約13億円であり、70%相当の約9億円が交付税措置されることになります。また、嬉野市では平成18年の合併以降、財政再建に計画的に取り組んできており、ここ数年はふるさと応援寄付金(ふるさと納税)が堅調なこともあって、必要な事業を行いながらも貯金に相当する基金のうち公共施設整備に充てられる基金は11億円にまで積み増すことができています。


 今後2庁舎体制を維持するとなると、それぞれにかかる維持管理費や光熱費はもとより、重複する人件費および庁舎間の移動にかかる費用(年間5550万円)、将来の塩田庁舎の建設費も考慮しなくてはなりません。庁舎も含めた公共施設の統廃合を行わず更新を繰り返すと40年後には150億円の財源不足が生じることも分かっています。これらの赤字分を補う財源を見つけない限り、全体の市民サービス低下は避けられない状況となります。

 

  特に塩田地区では、塩田庁舎を含めた周辺一体の利便性の低下を心配する声も根強いと思いますが、塩田庁舎やその周辺がもぬけの殻になるということは決してありません。これまで地区内のショッピングセンター撤退後のスーパーマーケットの誘致活動など、この地域を豊かにするために市が全力を挙げて取り組んできました。これからもそうです。窓口などの行政サービスを提供する拠点は維持しつつ、新たなにぎわいを生み出したいと考えています。コンビニ交付やオンライン手続きなどの取り組みも進んでいますが、その他にも地域コミュニティや郵便局などさまざまな組織と連携を深め、私たち行政と市民が「つながる場」はむしろ増やしていきたいと考えています。業務効率化や意思決定を迅速に行い、行政サービスの質の向上を図る観点からも必要なことだと考えます。合併時の経緯についても大変な苦労があったことを踏まえつつ、嬉野市全体の発展の礎を築いてまいります。


 最後に災害対応の観点で皆さんにも知っておいていただきたいことがあります。昨年8月豪雨では塩田庁舎周辺の道路は冠水し、1日以上通行ができませんでした。こうした中に大規模地滑りの報や床上浸水による救助要請が入りましたが、身動きが取れず、オンライン通信システムにより遠隔で現場状況の把握や現場への指示を出しました。市役所庁舎が被災したために対応が遅れ、復興も遅れるということがあってはならないと考えます。かつての想定を大きく超える豪雨となるのは、ここ数年は毎年のこととなっています。だからこそハザードマップで危険が少ない場所に堅牢な災害対応拠点を置く必要があると思うのです。


 反対意見を述べられる方から「無駄遣い」「不公平」「災害対策を軽視」という声も多かったのですが、私は市民の将来負担を軽減し、質の高いサービスを提供し、市民の命を守るために行動する義務を負っています。今後もわかりやすい説明に努めながら、市民の皆様の思いに寄り添い、よりよいまちにしていくために真摯に努力を重ねて参ります。



令和4年4月7日 村上 大祐

 

このページに関するお問い合わせ
塩田庁舎 広報・広聴課
TEL:0954-66-9115
FAX:0954-66-3119(代表)
MAIL:info@city.ureshino.lg.jp

ページトップへ戻る