伝統と歴史を守り、伝えるということ
秋の深まりとともに、朝晩の冷え込みも厳しくなってきました。今年は記録的な猛暑や豪雨に見舞われたものの、この嬉野市には豊かな実りをもたらしてくれたようです。市内では、五穀豊穣に感謝しつつ、災害よけや無病息災を祈願する秋のおまつりが、10月下旬から11月上旬にかけて各地で開かれました。神事に合わせて奉納する伝承芸能も、鉦(かね)を打ち鳴らす鉦浮立や、笛や太鼓に合わせて踊る小浮立、神輿行列と色とりどりの地域の特色を知ることができます。
私が住む塩田町宮ノ元地区には、11月2、3日に開かれる丹生神社の「おくんち」に合わせて奉納される獅子舞が伝わっています。口を上下に噛み合わせる動きの獅子舞とは違い、雌雄一対の平たい形状の面を力強く震わせる舞を2人1組で演じるものです。はっきりした起源は分かっていませんが、丹生神社の祭神が水神ということもあり、水害の常襲地である塩田川流域の住民が災害除けの願いを込めたのではないかと推測します。「おくんち」は氏子の10行政区が毎年持ち回りで当番をしており、宮ノ元区としては10年ぶりの奉納。私も氏子のひとりとして志願して練習に参加しました。
9月3日から始まった練習は厳しい残暑もあって、過酷なものでした。最初はソウケ(竹製のかご)を獅子面代わりに持って基本動作の訓練でしたが、日ごろの運動不足もたたり、走るだけでも息が切れ切れに。獅子の面は重さが8キロ超にもなるため、思い通りに動かすことも難しく、師匠から「面が動いていない!」「声が出とらん!」と檄が飛びます。
いよいよ本番となった11月2日。朝から地元の保育園や事業所を回り、舞がお披露目になりました。地域の方々の応援も力になりました。そして最終日の3日夕方、神様が戻られた本殿前で最後の舞が披露されたとき、一抹のさみしさとともに、自然と「このまちに住んでいて本当によかった」という感情が湧き上がってきました。
「よき伝統を守る」「歴史を後世に伝える」ということに異論を挟む人は少ないと思います。しかしながら、獅子舞の経験を通じて感じたのは、実際に行うことの難しさでした。舞を披露する若い人を地域に根付かせること、まつりに関わる多くの人が気力体力ともに充実すること、子どもからお年寄りまで地域を大切に思う気持ちを持つこと。10年先の次を見据えたまちづくりそのものと言えます。日本全国で災害が相次ぐ中、支え合い、助け合う良き伝統をしっかり守っていく―。改めてそう心に誓いました。